指導医・研修医ブログ

血液内科と総合内科の日々~北アルプスを望みながら~ 5

【孤立性の腹腔動脈解離】

50代の男性、数年前から高血圧を指摘されている喫煙者。
2日前に胸痛+背部痛が出現。
痛みが増強してきたために受診。
腹痛は無し。
拡張期血圧が120を超える高血圧。
痛みはあるものの、歩行可能で重篤感は無い状態での来院でした。
大動脈解離を疑って造影CTを撮影すると、孤立性の腹腔動脈解離が判明。
トロポニンの上昇や心電図異常は認めず、胸痛は高血圧に伴うものであったと考えました。

腹腔動脈(CA)解離は上腸間膜動脈(SMA)解離と合わせて、腹部内臓動脈解離としてまとめられますが、病因や関連については不明です。
CA解離はSMA解離と同様にアジアからの報告が大半です。
内科学会の「PINACO」を確認してみると,地方会では毎年数例の発表があり、地方会の常連になっています。

J Vasc Surg. 2018 Oct;68(4):1228-1240のレビューでは、当初に保存的治療を選択された場合に、CA解離の8%、SMA解離の12%がその後に外科的治療を要しています。
長期的な死亡率はそれぞれ0%、1%と低値。高血圧や喫煙との関連は不明です。腹痛は無く、検査前には全く想起していませんでした。

血液内科 武岡康信

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血液内科と総合内科の日々~北アルプスを望みながら~ 4

セフトリアキソン(CTRX)で、尿路結石や胆石が起こることは、Lancet. 1988 2(8625):1411-3. ,Lancet. 2(8655):165.など、30年ほど前の発売当初から報告があります。

【高齢の女性。CTで市中肺炎と診断し入院】

CTRX2g/日を開始。肺炎は速やかに改善し7 日間で投与を終了。
投与最終日の7 日目に突然の心窩部痛が出現。
自覚症状は数時間で消失。
血液検査では、胆道系酵素の上昇あり。
腹部CTでは総胆管内に3mmの結石を疑う所見。
エコーでも総胆管結石の所見。
入院時のCTでも腹部が撮像されおり確認すると、その時点では結石なし。

「CTRXによる(偽)胆石で、胆石疝痛を起こした」と考えカンファレンスで報告。

すると、「以前から胆石が存在し、たまたま入院時は映ってなかった(偽陰性)可能性は?」という指摘。改めて入院時のCTを確認すると、その時点で総胆管はやや拡張している。でも、それだけで胆石を否定も肯定もできません。胆嚢内の結石であれば治療を急ぐことはありませんが、総胆管結石であればvery strong risk群であり、積極的に治療を考える必要があります。

最終的には、1週間後のMRCPとERCPでも結石を認めず、CTRXによる(偽)胆石と診断しました。

文献や内科学会の「症例くん」を確認してみました。CTRXを投与した患者を、前向きにエコーで経過観察した報告が小児・成人でそれぞれ2-3報あり。5-10%の患者でエコーでの(偽)胆石を生じるようです。症例報告では、今回の症例と同様に「CTRX投与前のCTでは無かった胆石が出現した」パターンが多い。経過観察で無症状のまま消失したという報告が多いですが、今回の症例のように胆石発作や胆管炎・膵炎を発症した報告もあります。

その中には、以前から無症候性の総胆管結石があった症例も含まれている可能性はあります(X線陽性の総胆管結石がCTで偽陰性になる率が問題ですが、調べられませんでした。)。

CTRX(偽)胆石なら経過観察でよいだろう、と単純ではなく今回のように総胆管内に生じた場合には慎重な対応が必要です。MRCPやERCPが速やかに行える施設かどうか、ということでも対応に差があるだろうと思われます。

カンファレンスで意見をきくことは大切だと、いつも思います。

血液内科 武岡